大判例

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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)693号 判決

控訴人

友井茂

右訴訟代理人弁護士

浦功

右同

菅充行

被控訴人

参玄建設工業株式会社

右代表者代表取締役

岡西一六八

右訴訟代理人弁護士

蒲田豊彦

同訴訟復代理人弁護士

岩永恵子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

「一 原判決を取消す。二 被控訴人の請求を棄却する。三 訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。

二  被控訴人

主文同旨の判決。

第二  当事者の主張

一  原判決の引用

当事者の主張は以下のとおり訂正、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

原判決二枚目表末行の「体建具」を「躯体建具」と、同裏二行目の「禾工事」を「木工事」と、同裏七行目の「行つた」を「行なつた」と訂正する。

同五枚目表末行の「被告も被告も」を「被告も」と、同八枚目表六行目の「設計図通り」を「設計図通りに」と訂正する。

同一〇枚目裏末行の「賃貸」を「貸借」と、同一一枚目表六行目の「対等額」を「対当額」と訂正する。

二  控訴人の当審附加主張

(一)  原判決認容の追加工事(二)の一の外部工事費は、甲第二号証の第一次変更追加工事費と二重請求であり、同二の内部工事費のうち郵便ポスト取付工事費は住宅必需品として代金請求の対象とならないし、その他の工事費は本体工事及び追加工事(一)に含まれるものである。要するに甲第三号証による右第二次追加工事(二)の一、二については控訴人が別途注文したものでもなく、その金額も了承していない。同号証記載の七七万四、七八〇円は全く追加工事に該当しないか、控訴人に請求できるものではない。

(二)  本件建物新築工事は昭和五四年一二月末日ごろ控訴人が右建物に入居した時点はもとより現時点でも未完成である。控訴人は被控訴人が工事の未完成を認めたうえ、せめて正月だけでも新しい家で過ごすことを勧めたのに応じたまでである。

(三)  (1)本件工事請負契約には竣工検査後に残代金二四〇万円を支払う旨定められているが、(2)この竣工検査が完了していないので、その支払義務はない。

(四)  仮りに、本件追加工事代金の支払義務が生じていたとしても、被控訴人は終始本工事残代金二四〇万円のみを請求し、追加工事代金を一切請求せず、昭和五五年九月二〇日追加工事代金四〇万円の請求を確定的に放棄した。

三  被控訴人の当審附加主張

(一)  控訴人の当審附加主張二(一)を争う。

控訴人と被控訴人との話合いは追加工事をしたことを前提として進められており、甲第三号証は見積書ないし請求書としての体裁は十分でないが、昭和五五年六、七月頃控訴人に交付して了承を得ている。

(二)  同附加主張二(二)を争う。

昭和五四年一二月三一日には屋上防水工事と一階便所の便器の移動の二個所の手直し工事及び小さい工事が残つていたが、住むのには差し支えない状態であり、本件建物の建築工事を完成していた。その頃控訴人が「正月は新しい家で迎えたい」と申出たのに応じ、その引渡をしたものである。

(三)  同附加主張二(三)(1)の事実を認めるが、同(2)を否認する。

本件建物は昭和五五年二月末または同年八月末に福島敬明こと福島洋志の竣工検査合格の承認を得たもので、最終工事残代金二四〇万円はその三〇日後にその支払義務が生ずる。

(四)  同附加主張二(四)を争う。

被控訴人は控訴人と話合いの途中で、本工事残代金二四〇万円を支払つてくれたならば二つの追加工事をサービスとして免除してもよいと考えていたが、控訴人の使者大市貞雄から金一四〇万円で全面解決したいとの提案があつたので被控訴人がこれを了承すると、控訴人は前言をひるがえし、この減免の合意は成立しなかつた。

四  証拠〈省略〉

理由

一当裁判所も原判決と同様、その認容する限度で被控訴人の請求を認容すべきものと判断する。

その理由は以下のとおり訂正、附加するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

原判決一二枚目表七行目の「原被」を「原、被」と、同裏二行目の「これを放棄する」を「右給水引込工事代金全額を放棄する」と、同九行目の「(二)」を「(二)の一」と訂正する。

同一三枚目表四行目の「沿う」を「副う」と、同六行目の「手直工事等を要求していることからすると」を「手直工事やその限度を越えた性質の追加工事を要求しているところからすると」と訂正する。

同一四枚目表五行目の「中央より片寄つて」を「中央から少し片寄つて」と、同裏一一行目の「右認定事実」を「右認定の各事実」と、同一二行目の「こと②」を「こと、②」と、同末行の「中央より片寄つて」を「中央から少し片寄つて」と訂正する。

同一五枚目表一行目の「ことの瑕疵」を「という補修を要する瑕疵」と、「ことは」を「事実は」と、同二行目の「できず」を「できるが」と、同五、六行目の「天床板にしみ状のもの」を「天床板に夜になると白いしみ状に見えるむらの」と、同六、七行目の「右天床板がこれにより」を「これにより右天床板の」と、同裏七行目の「ついての補修」を「ついて補修」と訂正する。

同一六枚目表一〇行目の「証言被告」を「証言、被告」と、同裏六行目の「対等額」を「対当額」と訂正する。

二控訴人の当審附加主張二(一)について、原判決添付別紙追加工事内訳表(二)の一の外部工事費のうち西面シャッター取替工事(代金四万円)は同追加工事内訳表(一)の工事と重複するものであることは前示引用の原判決一二枚目裏において認定するとおりであるが、その余の追加工事(二)が追加工事(一)と重複する二重請求であるとの点は、本件全証拠、弁論の全趣旨によるも、これを窺わせ、また右残余の追加工事(二)のほか追加工事(一)がなされたとの前示引用の原判決による認定を左右するに足りない。

また、控訴人は同追加工事(二)の二の郵便ポスト取付工事費は住宅必需品として代金請求の対象とならない旨を当審で附加主張しているが、前示引用の原判決一二枚目裏一一行目ないし一三行目において、既に「郵便ポスト取付工事(代金二万円)は本工事に含まれるものであつて追加工事にあたらない」と認定されており、これに対する不服は主張自体意味をなさない。そして、右郵便ポスト工事以外の残余の追加工事(二)の二の工事費が本体工事及び追加工事(一)に含まれるという控訴人の当審附加主張二(一)は、本件全証拠、弁論の全趣旨によるもこれを認めるに足りない。

さらに控訴人は右残余の追加工事(二)の一、二は控訴人が別途注文したものでなく、控訴人に請求できるものでない旨主張するが、前示引用の原判決一三枚目表(前示訂正ずみのもの)により認定しているとおり、控訴人は被控訴人に対し、本件建物の建築工事完成後も種々の手直工事やその限度を越えた性質の追加工事を要求していることのほか、前示甲第三号証の工事内容を仔細に検討すると階段下物入、浴室鏡取付、台所鏡取付、ホール入口クラッシックドアに変更、ローカ物入(建具共)、子供室硝子入替、台所、ホールのガスボックス取付、下駄箱など、控訴人が注文もしないのに建築業者である被控訴人が勝手に施行する筈のない工事が列挙されていること、及び弁論の全趣旨に照らすと、控訴人において右追加工事を注文した事実を推認することができ、この認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果の一部は、原判決援用の各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず他に右認定を覆すに足る証拠がない。

三控訴人は当審附加主張二(二)において控訴人が本件建物に入居した昭和五四年一二月末日ごろは未だ建物が完成していないし、被控訴人が工事の未完成を認めたうえ、正月だけでも新しい家で過ごすことを勧めたものである旨主張する。

しかしながら、民法六三二条、六三三条において請負代金の支払の要件とされている「仕事の完成」と「その引渡」について考えるに、まずここにいう「仕事の完成」とは、請負工事が当初予定された最終の工程まで一応終了したことを指し、ただそれが不完全で修補を要するときは、完成した仕事の目的物に瑕疵があるにすぎない。仕事が完成せず未完成であるのは、請負工事が途中で打ち切られ、予定された最終の工程を終えない場合をいい、また「引渡」とは正式の引渡証の交付の有無を問わず目的物の占有ないし、実力的支配の任意の移転を指すものである。

ところで、前示引用の原判決一一枚目裏四行目から一二行目において認定されている事実、及び原判決援用の各証拠、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第八号証、弁論の全趣旨を総合すると、昭和五四年一二月末日ごろには、本件建物の新築工事は当初予定された最終工程までの工事を一応終了したが、屋上の防水の不完全、一階便所の便器の据付位置の不備、その他の細部につき控訴人において手直工事を求めるクレームがあつたにすぎないこと、この時期における控訴人の入居は控訴人において「正月は新居で迎えたい」と希望し被控訴人においてそのように取り運んだものであること(とくに原審証人福島洋志の証言―原審記録一四四丁裏、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果、同記録一五〇丁裏)が認められ、この認定に反する原審証人福島洋志の証言の一部(但し、「未完成」をいう点は前示屋上防水不完全、便器位置の不備等の補修を要することをその理由としたもので、同証人が「未完成」の法的意味を誤解したことによるものと認められる)、原審における控訴人本人尋問の結果の一部はいずれも前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

そして、前掲各証拠、弁論の全趣旨によると、昭和五四年一二月末ごろ、控訴人は正式な引渡証の交付を受けなかつたけれども、被控訴人から任意に本件建物の占有ないし実力的支配の移転を受けてその引渡を受けたことが認められ、この認定に反し、引渡証の交付のないことを理由として引渡がないとする原審証人福島洋志の証言、前示控訴人本人尋問の結果の一部はいずれも前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがつて、控訴人の当審附加主張二(二)は採用できない。

四控訴人の当審附加主張二(三)につき判断するに、同(三)(1)のとおり本件請負工事契約では竣工検査後に残代金二四〇万円を支払う旨の定めがあることは当事者間に争いがないが、前示甲第八号証、原審証人福島洋志の証言、弁論の全趣旨に照らすと被控訴人の当審附加主張三(三)のとおり昭和五五年八月末頃福島洋志の竣工検査合格の承認に相当する行為があつたと認められ、他にこの認定を覆すに足る的確な証拠がない。

したがつて、竣工検査未了を理由に本件請負代金の支払義務がない旨をいう控訴人の当審附加主張二(三)は採用できない。

五控訴人の当審附加主張二(四)の追加工事代金の請求放棄ないし免除の抗弁は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

六よつて、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、これを失当として棄却することとし、控訴費用につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官諸富吉嗣 裁判官吉川義春)

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